大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和37年(ワ)4106号 判決 1968年2月27日

原告 株式会社鈴木不動産

右代表者代表取締役 鈴木正三

右訴訟代理人弁護士 橋本順

同 早川庄一

右訴訟復代理人弁護士 白井正明

被告 鈴木正男

<ほか一名>

右両名訴訟代理人弁護士 瀬古啓三

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「被告らは各自原告に対し、金三九〇、〇〇〇円および、これに対する昭和三七年六月九日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は、被告らの負担とする。」との判決ならびに仮執行宣言を求め、その請求原因ならびに被告ら主張に対する答弁ならびに抗弁として、

「一、原告は、宅地建物取引業者の登録を受け宅地建物の売買の仲介等を業とする商人である。

二、原告は、昭和三六年八月末日頃被告鈴木から、別紙第一物件目録記載の宅地、建物(以下、単に本件第一物件という)につき売却方仲介の委託を受け、また同年九月末日頃被告相川から右物件につき買受け方仲介の委託を受け、被告らは右仲介委託の際、右物件についての売買契約が成立した場合は、東京都告示第九九八号所定の最高額(取引金額二、〇〇〇、〇〇〇円以下の部分につき百分の五、金二、〇〇〇、〇〇〇円を超え金四、〇〇〇、〇〇〇円までの部分につき百分の四、金四、〇〇〇、〇〇〇円を超える部分につき百分の三)の報酬を支払う旨を約した。そして、同年一〇月頃被告らから右第一物件に追加して別紙第二物件目録記載の宅地、建物(以下、単に本件第二物件という)についてそれぞれ売却および買受け方仲介の委託を受けた。なお、被告鈴木の前記報酬支払いの約定が委任にかかっていた旨の主張は否認する。

三、原告は、右委託にもとずき被告らとの間で本件第一及び第二物件の売買につき売買代金の折衝その他の仲介斡旋に従事していたところ、昭和三六年一一月末日頃被告ら間において、本件第一及び第二物件を代金一一、〇〇〇、〇〇〇円で売渡し、その代金は契約成立時に金五、〇〇〇、〇〇〇円を、移転登記と同時に残金全額を、それぞれ支払うこととして昭和三六年中に右登記を完了するところまで話合いが進んだのであるが、被告らの都合により契約の締結は延引されていた。

四、ところが、被告らは、ひそかに原告を除外して、昭和三七年二月一〇日頃本件第一及び第二物件について売買契約を締結したうえ、その旨の移転登記手続を経由したのであって、右売買代金は総額金一一、〇〇〇、〇〇〇円を下らない。

五、ところで、原告は被告らの間に原告の仲介による売買契約が成立すれば、前記告示所定最高額の報酬が得られた筈であるが、被告らは右報酬の支払いを免れるため、ひそかに原告を排除して直接取引をしたのであって、右直接取引は、原告の仲介による売買契約の成立を故意に妨害する信義則違反の行為であり、右妨害行為によって原告の仲介による売買契約の成立が不可能となった。そこで、原告は民法第一三〇条の類推適用により、被告らの間に原告の仲介による売買契約が成立したものとみなし、被告らに対し原告の仲介による売買契約が成立した場合の報酬の支払いを請求するものであるがその金額は本件第一及び第二物件の売買代金額を基礎として前記告示所定最高額を算定すると金三九〇、〇〇〇円を下らない。

六、かりに、原告の仲介による売買契約が成立したものとみなすことができないとしても、被告らの直接取引は、原告の仲介がその動機となり原告の仲介の結果を利用しているものであるから、原告は被告らに対し、商法第五一二条により相当の報酬を請求できるものであるが、東京都内において、仲介業者が売買契約の当事者双を紹介して、売買の折衝を進めた以上は、売買契約の際仲介業者が立会っていなくても、仲介業者の仲介が動機となりその結果を利用して当事者間の直接交渉により売買契約が成立したときは、その売買契約が仲介業者の仲介により現実に成立した場合と同様の報酬を請求できるとする事実たる慣習があり、被告らは本件仲介委託の際この慣習に従う旨を約したものであり、かりにそうでないとしても右慣習を排除する意思表示をしなかったから、被告らは商法第五一二条および前記慣習に基き少くとも前項記載の報酬額の支払いをまぬがれない。

七、かりに右主張が認められないとしても、いったん売買の仲介委託をし売買の相手方や目的物件を示された後仲介業者を排除して当事者間で直接取引をし報酬の支払いを免れるとすれば、仲介業者の利益は著しく害されるとともに、その努力の成果を不当に奪うことになり取引の信義公平に反するから、原告の仲介が本件売買契約成立の動機となり原告の仲介の結果が本件第一及び第二物件の売買契約の成立に利用されている以上原告はその仲介尽力に対し民法第六四八条第三項、第六四一条の趣旨および取引上の信義公平の見地から相当の報酬請求権を有するものというべきであり、原告のした仲介はその最終段階まで到達し仲介業者としてなすべき余地を残していないのであるから被告らは原告の仲介による契約が成立した場合におけると同額の報酬として、少くとも前項記載の金員を支払うべきである。

八、以上の理由により、原告は被告らに対し、それぞれ報酬金三九〇、〇〇〇円および本件訴状が被告らに送達された日の翌日である昭和三七年六月九日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

九 被告鈴木の主張第八項記載事実は否認する。原告は、昭和三六年一二月一六日頃被告鈴木から、本件第一及び第二物件の売却方仲介を昭和三七年春まで延期されたい旨の通告を受けたに過ぎない。かりに、被告鈴木が原告に対する仲介委託を解約したとしても、不動産仲介業者に対する仲介委託は有償双務契約であり、その事務処理が委託者のみならず受託者たる仲介業者の利益をも目的とするものであるからその当事者に解約権はなく、被告鈴木の右解約は無効である。

一〇、被告相川の主張第八項記載事実は否認する。原告は、昭和三六年一一月中旬頃被告相川に対し、昭和三七年春まで本件第一及び第二物件の買受け方仲介を延期する旨通告したのに過ぎない。かりに原告が被告相川に対し仲介委託を解約したとしても、右解約は被告鈴木の解約が無効であるとする理由と同様の理由により無効である。

一一、被告相川の主張第九項記載事実中、昭和三七年五月初旬頃南新宿商店会幹部が心配して原告と被告相川をその席上に呼び各別にその事情を聴取したことは認めるが、その他の事実は否認する。」

と述べ(た。)≪証拠関係省略≫

被告ら訴訟代理人は、被告鈴木の原告主張に対する答弁ならびに抗弁として、

「一、原告主張第一項記載事実は認める。

二、同第二項記載事実の被告鈴木に関する部分中、本件第一物件の売却仲介を原告に委託した日時は昭和三六年九月二七日頃であり、本件第二物件の売却仲介の委託をしたのは同年一一月下旬頃である。また、被告鈴木が原告主張の報酬を支払う旨、約したのは、これを無条件に支払うことを承諾したものではなく、被告鈴木は原告に対し、負債整理の必要上、売却を急いでいるのであるから必ず昭和三六年一一月一杯までには必ず売買契約の成立を完了させ手付金の授受も完了させて貰いたい、そのときは所定の報酬を支払う旨はっきり日限を切り条件をつけていたものである。その他の事実は認める。

三 同第三項記載事実中、原告が本件第一及び第二物件の売買成立につき仲介斡旋に従事したことは認めるが、その他の事実は否認する。被告相川からの応答は一一月末はおろかその後も原告の口から一言ももらされなかったのであって、原告主張のような話合いは成立していないのである。

四、同第四項記載事実中、原告主張のような売買契約が成立し所有権移転登記手続を経由していることは認めるが、その他の事実は否認する。被告らの間に成立した売買契約は、決して原告に対する報酬支払いを免れるため、ひそかに原告を除外してしたものではない。被告鈴木は、これより先原告に対し、後記のようにはっきり売却方仲介の委託を解約しているものであり、右売買契約および登記は、原告がもはや介在すべきでなくなった後したものである。

五、同第五項記載事実は否認する。

六、同第六項記載事実は否認する。被告鈴木は原告の仲介が無責任極まるものであったので、迷惑こそ蒙れ利益は全然受けていないものであって、原告が誠意ある仲介をしなかったため、被告鈴木は一二月に入っても金策がつかず年末を目前にひかえて四苦八苦したのである。被告らの間に成立した売買契約は原告に対する仲介委託を解約した翌年である昭和三七年正月年始の挨拶に来た三角秀徳に本件物件の売買が挫折したその話から端を発し同人および平木重雄らの斡旋で新規に成立したものであり、本件第一及び第二物件全部を代金一三、五〇〇、〇〇〇円で売却し、そのうち右側売主鈴木の居住および営業部分は従前どおり居住営業を認め、また売主に対する優先的買戻しに応じるというものであって原告の仲介による売買とは全然別個のものである。

七、同第七項記載事実は否認する。

八、同第八項は争う。

九、被告鈴木は、昭和三六年一二月八日頃原告に対し、本件第一及び第二物件売却方仲介の委託を解約する旨の意思表示をし、原告は即座にこれを承諾したものであるが、その解約した理由は、被告鈴木は本件第一及び第二物件の売却により年末金融を切抜けなければならない苦しい状況にあったので、原告に対しその旨を告げて、必ず一一月末日までに本件物件の取引を完了させて貰いたい旨堅い条件をつけ仲介を委託したものであるが、原告は一一月末日が過ぎても売買成立の見通しを得てくれず、いよいよ一二月に入って負債整理のため進退がきわまってしまった被告鈴木が再三原告に督促をしてみても、原告からの回答はそのうち相川から返事がある筈であるからという言訳に過ぎず、全然売買交渉が進渉しなかったためである。したがって、右正当な解約後においては原告はその後被告らの間に成立した売買契約について条件成就とみなす権利を有しない。原告の右解約が無効である旨の主張は争う。仲介委託は準委任として、当事者はいつでも解約できるものである。」

と述べ、被告相川の原告主張に対する答弁ならびに抗弁として、

「一、原告主張第一項記載事実は認める。

二、同第二項記載事実の被告相川に関する部分中、本件第一物件につき原告に対してその主張のように買受け方仲介の委託をしたことは認めるが、その他の事実は否認する。被告相川は原告に対し、本件第二物件の買受け方の仲介委託をしたことはないし、原告から報酬率を記載した紙片を示されたことはあるが、これを承諾したことはない。

三、同第三項記載事実は否認する。

四、同第四項記載事実中、本件第一及び第二物件につき原告主張のような売買契約が締結され、その所有権移転登記を経由していることは認めるが、その他の事実は否認する。右売買契約は決して原告に対する報酬の支払いを免れるためひそかに原告を除外してしたものではない。原告は、これより先後記のように被告相川に対し自ら本件第一及び第二物件の買受け仲介の委託を解約しているのであって、右売買契約は右解約後に成立したものである。

五、同第五項記載事実は否認する。

六、同第六項記載事実は否認する。原告の無責任な仲介のため、被告相川は迷惑を受けたことはあっても利益は受けていないのである。被告らの間に成立した売買契約は、原告から買受の仲介の委託が解約された翌年である昭和三七年に突然その売買の話が持ち込まれ、原告の斡旋とは関係なく成立した別個の取引である。

七、同第七項記載事実は否認する。

八、被告相川の原告に対する本件第一及び第二物件買受けの仲介委託は、昭和三六年一一月中旬頃原告の方から被告相川に対し、被告鈴木が原告に対する仲介委託を解約したことを理由にして被告相川に解約して来たものであり、被告相川もやむなくこれを承諾したものである。したがって、右解約後においては、原告はその後に成立した被告らの間の売買契約について条件成就とみなす権利を有しない。原告の右解約が無効である旨の主張は争う。その理由は被告鈴木の主張と同一である。

九、かりに原告が被告相川に対して報酬請求権を有するとしても、原告は昭和三七年五月初旬頃、南新宿商店会幹部を介し右報酬請求権については同幹部の裁定してくれる金額で一切を解決する旨を約し、右幹部一同協議の結果、被告相川が原告に対し金一封として金一〇、〇〇〇円を支払うべき旨裁定されたから、右金一〇、〇〇〇円以上の支払いを求める原告の本訴請求は失当である。」

と述べ(た。)

≪証拠関係省略≫

理由

一、(原告主張第一項について)

原告が宅地建物取引業者の登録を受け、宅地建物の売買の仲介等を業とする商人であることは当事者間に争いがない。

二、(原告主張第二項について)

同第二項記載事実中、原告が被告鈴木から本件第一物件につき売却方仲介の委託を受け、その際、被告鈴木が右物件の売買契約が成立した場合は東京都告示第九九八号所定最高額(取引金額二、〇〇〇、〇〇〇円以下の部分につき百分の五、金二、〇〇〇、〇〇〇円を超え金四、〇〇〇、〇〇〇円までの部分につき百分の四、金四、〇〇〇、〇〇〇円を超える部分につき百分の三)の報酬を支払う旨を約したこと、その後、原告が被告鈴木から右第一物件に追加して第二物件についてもその売却方仲介の委託を受けたこと、また原告が同年九月末日頃被告相川から第一物件につきその買受方仲介の委託を受けたこと、以上の事実は当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫を綜合すると、原告が被告鈴木から本件第一物件につき売却方仲介の委託を受けたのは昭和三六年八月下旬頃であり、同被告から第一物件に追加して第二物件の売却方仲介の委託を受けたのは同年一一月中旬頃で、その頃被告相川から第一物件に追加して第二物件の買受方仲介の委託を受けたこと、被告相川は後記のように原告から本件物件について買受方仲介を受けた際、原告から右物件について売買契約が成立した場合における原告に対する報酬額として前記告示所定最高額を示されてこれを承諾していたこと、以上の事実が認められ(る。)≪証拠判断省略≫もっとも、被告鈴木は右報酬支払いの約定は昭和三六年一一月中に本件物件の売買契約を成立させることを条件としていた旨主張するが、被告鈴木本人尋問の結果によっても同被告が右日限までに本件物件の売買契約が成立することを強く希望していたことが認められるにとどまり、それ以上に右主張のような条件が付加されていたことを認めることはできないし、他に右主張を認めることのできる証拠はない。

三、(原告主張第三項について)

≪証拠省略≫を綜合すると、原告は前記仲介委託にもとずき仲介業務に従事し被告らとの間で現地の案内、売買代金の折衝その他その売買成立に種々尽力していたところ、昭和三六年一一月末日頃原告の手許では、本件第一及び第二物件の売買代金額(金一一、〇〇〇、〇〇〇円)手付金額(金五、〇〇〇、〇〇〇円)等について双方の条件が一致するようになり、原告は被告鈴木の意向もあり早急に契約を締結させ遅くとも一二月二三日頃までには移転登記および代金の授受を完了させるべく努力していたが、被告相川において右手付金にあてるべく資金の準備が未了であるということで本件第一及び第二物件中、被告鈴木の居住営業部分の明渡期限ないし賃貸期間、賃貸料その他右売買に付帯する条件の折衝も進行させることができず契約締結には到らなかったこと、以上の事実が認められ(る。)≪証拠判断省略≫

四、(原告主張第四項について)

右第四項記載事実中、被告らが昭和三七年三月一〇日頃本件第一及び第二物件について売買契約を締結し、その旨の所有権移転登記手続を経由したことは当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫によると、その売買代金額は金一三、五〇〇、〇〇〇円であることが認められ、他に右認定を左右する証拠はない。

五、(被告鈴木の主張第九項について)

≪証拠省略≫を綜合すると、被告鈴木は昭和三六年一二月一六日頃、原告に対し、前記のように当時被告相川との交渉が進められていた本件第一及び第二物件の売買をとりやめ原告に対するその売却方仲介委託を解約する旨の意思表示をし原告もこれに対して格別異議を述べないで了承した事実が認められる。原告は被告鈴木の意思表示は昭和三七年春まで本件第一及び第二物件の売却方仲介を延期されたい旨の申入れに過ぎないと主張するが、原告本人尋問の結果中右主張に符合する部分は前掲証拠と照合すると容易に信用できない(被告鈴木の言辞の中には春にでもなったらその節はよろしくという表現があったとしても、それは単なる社交辞令に過ぎないし、その申入の全体をみると仲介の延期を申入れたものとは認められない。)。なお、被告鈴木は右解約の意思表示をしたのは昭和三六年一二月八日頃であると主張するが、≪証拠省略≫中、右主張に符合する部分は、前掲証拠と照合すると容易に信用できないし、他に前記認定を左右する証拠はない。

ところで、原告は不動産仲介業者に対する仲介委託は有償双務契約であり、その事務処理が委託者のみならず受託者たる仲介業者の利益をも目的とするものであるから委託者解約権がないと主張する。しかし、不動産売買の仲介委託も、いわゆる準委任であって、その事務処理そのものは委託者の利益のためされるものであるから、他に特段の事情が認められない以上、民法第六五一条の適用を排除すべき理由はなく、原告の右主張は採用できない。そして、右解約が原告を排除して直接取引をするためなされたというような信義則違反、権利濫用を理由とする無効の主張はないし、これを確認できる証拠もなく、かえって、≪証拠省略≫を綜合すると、被告鈴木は数百万円に上る借財処理の必要上、本件第一及び第二物件の売却を昭和三六年一一月中に、遅くとも同年一二月上旬頃までに成立させたいという強い希望を有し原告にもその旨伝えていたものであって、本件第一及び第二物件の売却代金を被告相川の希望する金一一、〇〇〇、〇〇〇円に譲歩したのもこのためであるが、前述したように一二月に入ってから原告の仲介による売買交渉が、被告相川の事情から生じたものとはいえ、進行状況がはかばかしくなく、原告に再三要請しても被告相川の返答待ちというような状況で時日を経過して遂に一二月中旬に至り、まだ色々と交渉余地が残されていた本件第一及び第二物件売買が同月二三日までに成立する可能性に強い危惧が感じられ、同日までに絶対必要とした資金約金二、〇〇〇、〇〇〇円前後(本件物件の売買手付金をあてる予定であった)を取得できるかどうかも不安となったので、ここに原告の仲介による本件第一及び第二物件の売却をあきらめ、とりあえず必要な資金は義姉田口みちから借受けることとして本件解約に及んだものであること、ところが、翌三七年正月年始に来た訴外三角秀徳に被告鈴木が本件第一及び第二物件の買主の紹介方を依頼したことからはじまり、三角秀徳の主人にあたる訴外平木重雄がたまたま知人であった被告相川を紹介することとなり、右三角秀徳、平木重雄の仲介により同年二月一〇日頃本件第一及び第二物件の売買契約が成立することになったものであるが、その売買代金も金一三、五〇〇、〇〇〇円となり原告の仲介していたときには確定していなかった被告鈴木の居住営業部分の明渡期限ないし賃貸期間、賃貸料等もその際合意決定をみたこと、以上の事実が認められる。

六、(被告相川の主張第八項について)

≪証拠省略≫によると、原告は昭和三六年一二月中旬頃、前記のように被告鈴木から解約があった後直ちに被告相川に対し、被告鈴木から解約があったことを理由として被告相川から受けた本件第一及び第二物件の買受方仲介の委託を解約し被告相川もやむなくこれを了承したことが認められる。原告は、被告相川に対して昭和三七年春まで本件第一及び第二物件の買受方仲介を延期する旨通告したのに過ぎない、と主張するけれども、≪証拠省略≫中、右主張に符合する部分は前掲証拠と照合すると容易に信用できないし、他に右認定を左右する証拠はない。

原告は、右解約は無効であると主張するけれども、不動産仲介業者に対する仲介委託が有償双務契約であって、その事務処理が受託者の利益をも目的とするから解約権がない旨の主張が採用できないことは被告鈴木の解約権の存否について判断したとおりであり、他に右解約を無効とすべき理由につき格別の主張も立証もない。

七、(原告主張第五項について)

さきに判断したように被告鈴木の原告に対する、また原告の被告相川に対する仲介委託の解約を無効とすべき理由がない以上、その後被告らの間に成立した売買契約について原告は民法第一三〇条の類推適用によって原告の仲介による売買契約が成立したものとみなす権利を有しないものといわなければならない。したがって本項の原告主張は他の点を判断するまでもなく理由がない。

八、(原告主張第六、七項について)

≪証拠省略≫によると、被告らの間に成立した売買契約の交渉にあたり、原告がさきに仲介していた際の事情が手掛り、あるいは参考としてある程度利用されたことが認められ、他に右認定を左右する証拠はない。しかし、東京都内において仲介業者が売買契約の当事者双方を紹介して売買の折衝を進めた以上、売買契約の際仲介業者が立会っていなくても、仲介業者の仲介が動機となりその結果を利用して当事者間の直接交渉により売買契約が成立した場合には、その売買契約が仲介業者により現実に成立した場合と同様の報酬を請求できるとする事実たる慣習がある旨の原告主張については、≪証拠省略≫によっても右主張を認めることはできないし、他に右主張を認めることのできる証拠はない。

ところで、不動産売買の仲介委託において、仲介人は仲介のための尽力をしただけでは当然に報酬を請求できるものではなく、その仲介のための尽力により、その仲介にかかる売買契約を現に成立させた場合にはじめてその報酬を請求できるものと解せられる。けだし、商事仲立に間する商法第五五〇条、第五四六条の規定は不動産売買の仲介のような民事仲立について右のような原則が存在することを前提としているものと考えられるし、右のように解した場合、仲介人の尽力が往々徒労に帰する結果となることを認めることとなるとしても、反面仲介人はわずかな尽力により多額の報酬を得る場合もしばしばあるから、右のように解しても必ずしも信義公平に反するものとはいえないからである。本件において原告はその仲介により被告らの間に現に売買契約を成立させることができなかったものであり、その後被告らの間に成立した売買契約は、原告に対する仲介委託が正当に解除された後、原告の仲介にかかる売買交渉とは別箇に成立した取引であって、原告の仲介の結果が被告らの間に成立した売買契約の成立過程にある程度利用されているとしても、それだけでは被告らに対し報酬を請求できる理由はないものというべきである。したがって、他に格別の主張、立証もない以上、本項における原告主張は採用できない。

九、(結論)

以上のように被告らに対して報酬請求権を有するとする原告の主張はすべて採用できないから、原告の本訴請求は失当として棄却をまぬかれない。

そこで、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 篠原幾馬)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例